立春の候。文字通り「春立つ」時節で、暦の上では春の到来なのですが、今週はまた寒波到来で、実際には寒さの厳しい頃でもあります。梅花も綻び始め、降り注ぐ陽光からは春の気配が感じられます。旧暦の七十二候では、この季節から新年が始まります。

合掌

ならさかの いしのほとけの おとがひに
こさめながるる はるはきにけり

会津八一

まもなく平昌オリンピックが開幕されます。日本選手団の活躍が期待されます。ところで、昨年の世界フィギアスケート選手権で優勝した羽生結弦選手は、記者団の「今一番したいことは」の質問に、「練習がしたいです」と応えています。5位と出遅れたショートプログラムを、翌日のフリーの演技で巻き返すという劇的な逆転勝利に、会場は大歓声に包まれました。

凡人ならば、つい有頂天になる場面ですが、冷静に自己を見つめる姿に、「王者」の風格を見た人も少なくないでしょう。ルンルン気分の時、「有頂天になるなよ」などと忠告されますが、有頂天の語源は仏教にあります。仏教では私たちの苦しみの世界を六つに分け「六道」といわれます。地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天上界、楽しみが多いとされる天上界でも、最上位にあるのが「有頂天」です。

ただこれも迷いの世界ですから、楽しみは続かず、転落する苦しみはさけられません。では、そんな有頂天にならないようにするにはどうすればよいのでしょう。得意の絶頂で頭をもたげてくる自分の心を見つめたいものです。それは「慢心」自惚れの心です。自らの成功に酔い、他人を見下し、踏みつけている恐ろしい心です。

自分自身を忘れることは最も危険であると、19世紀デンマークの哲学者、キルケゴールも言うように、自己を見失ってしまうと、進む可き正しい道も踏み外してしまいます。そんな慢心を戒めようという姿勢に、羽生選手の強さの秘訣があるのかも知れません。全ての選手にエールを送りたいと思います。

釈 正輪 拜