日曜日の早朝、近くの田園から一羽の雄のキジが、ケーンッケーンッと鳴きながら飛び立つのを見ました。今の時節は「雉始めてなく」といい、これは七十二候の一つで、一月十五日から十九日ころに相当します。二十四節気の小寒の末候にあたる晩冬の時期です。

さて今回は、季の言葉にちなんでキジの蘊蓄をいたしましょう。まず雉が日本の国鳥であることをご存知でしたか。「戦後間もない昭和22(1947)年、日本鳥学会の多数決により圧倒的支持を得て国鳥に決まったのがキジでした。その最大の理由は日本固有の鳥であること。

鶴はもともとロシアや中国にも棲む渡り鳥だったので落選(ウキペディア参考)。また、かつてはあちこちにいたというトキも、シーボルトによって『Nipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)』とまで学名が付けられながら、じつは日本人にとって、農作物を荒らす害鳥として駆除の対象になりました。そこで最終選考に残ったのが「キジ」と「ヤマドリ」。実はどちらもキジ目キジ科の鳥で、本州・四国・九州で一年中姿を見ることができるといいます。

キジといえば『ももたろう』と鬼退治した功績で老若男女に有名です。一方のヤマドリのオスはチャームポイントの尻尾が「長い」の代名詞として日本の風流シーンに用いられ、万葉集では柿本人麻呂に「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」と歌われており、どちらかというと、ヤマドリの方が格調高いイメージがありますが、じつは両者には、決定的な違いがありました。

ヤマドリはその名のとおり、山の中に暮らす鳥。警戒心も強く、人はめったにその姿を見ることができません。ところがキジは、人家の近くの空き地などもウロウロ歩き回っているのです。薮の中に一応隠れてはいますが、いるのがバレバレ。とくにオスは外見もすごく派手なうえ「ケーンッ!ケーンッ!」と大声で鳴くので、すぐ見つかってしまいます。そんな国民との距離の近さが認められたようです(ちなみにヤマドリは、大声を出しません)さらにキジは「トリ肉といえばキジ肉」として平安貴族にも愛好されていました。

因みに、名古屋発祥のきしめんですが、それはキジの肉をいれたうどんが訛り、雉麺(きじめん)がきしめんになったとか。当時の国鳥の選定理由にはもう一つの理由がありました。それははなんと「大きく、肉の味がよく、狩猟の対象に良い」ということらしいのです。国鳥が狩猟の対象になっている国は日本だけともいわれますが、これも食文化を重んじる国民性の表れなのかもしれません。ただし今は勝手に捕まえて食べることはできません。

私が見たように、キジは農耕地や河川敷などで暮らします。草むらのちょっと小高い所に上がっては、声高らかに鳴くのはオス。さらに、胴に羽を打ちつけるように激しく振り「ドドドド」と大きな音をたてるのです。これを「ホロ(母衣)打ち」と呼び、ヤマドリも行います。山あいに響く羽音は、早春の風物詩にもなっていると聞きますが、激しい勢いで、自分の縄張りを主張しているのです。母衣とは、武士の鎧の背に装着し、飛んでくる矢などを防御するマント状の武具です。このように勇猛な動作が、日本男児には好まれたようです。

オスのキジは、体に巻き付いたヘビを断ち切ってしまうほど力が強いといいます。

『ももたろう』での大活躍も、その闘争能力ならではで、繁殖期にはさらに顔が真っ赤になり、赤いもの(他のオス)を見るとすぐさま戦闘態勢に入ります。強力な蹴爪で攻撃し縄張りを死守します。これでは青鬼赤鬼も降参するはずです。

雉(キジ)という漢字の「隹」は「とり」を意味します。矢のように飛んだり走ったりする鳥という意味なのですね。ところがこのキジ、飛ぶのはあまり得意ではなく、ひゅんと飛んでパタッと地面に落下してしまいます。けれども、陸上を走って逃げる速さは矢のように高速です。キジは逃走能力にも長けていたのです。そう思うと、オスの鳴き声は警笛のようにも聞こえませんか。メスをみつけると、かなり時間をかけてまわりをウロウロし、頭を下げて羽を広げて見せアピールします。

余計なことを言ったために窮地に立たされる『雉も鳴かずば撃たれまい』という題名の民話は、いくつかの地方で伝えられています。現在の一万円札の裏の図柄は、世界遺産にも登録された京都のお寺・平等院の鳳凰堂に飾られた「鳳凰像(国宝)」です。しかし、その前に発行されていた旧札の裏には、一対の日本キジが描かれていたのをご存じでしょうか。左がオスで右がメスだと云われています。

合掌

父母のしきりにこいし雉子(きじ)の声

松尾芭蕉

呼びかはす 雉子の声や をちこちは
小松ばかりの 山まろうして

若山牧水

釈 正輪 拜