寒中お見舞い申し上げます。「寒の入り」にはいりました。「小寒の氷、大寒に解く」の言い伝えのように、次の大寒より、寒さを強く感じることもあります。身も心も引き締めて、新たな一年に向かいます。

合掌

新しき 年の初の 初春
今日降る雪の いや重(し)け吉事(よこと)

大伴家持 万葉集・巻二十

一廉(ひとかど)の人物と言われる人間には、必ず幼少期の逸話があるものです。

フランスの片田舎に住む正直者のジャック。貧乏で隣家の借金が返せず、両親はやむなく飼っていた雌鶏六羽を、代わりに引き取ってもらいました。翌日、ジャック夫婦が畑に出た後、雌鶏が打ち連れて(そろって)卵を産みに古巣へ戻って来ました。

留守番をしていた七歳の息子フィリップは大喜び。「お母さんが帰ってきたら煮てもらおう」と、小籠に拾いあげようとして、ハッとしました。雌鶏はもう自宅(うち)のものではない。ならば卵は隣の人のもの、と気づいたからです。

早速、先方に届けたフィリップに感心した隣人は尋ねました。「お父さんかお母さんの言いつけかな」「いいえ、二人とも畑に行っています。帰ってきたら、きっと持っていけと言いますから」フィリップの正直に感動した隣人は、雌鶏二羽を褒美にくれました。フィリップは後に、フランスの大政治家になっています。『正直を貫けば必ず成功する』世の親たちはフィリップの両親のように、子供を育てているでしょうか。

二日前、新幹線内での事でした。満席の車中に、七・八歳の可愛い娘を連れたお母さんとお父さんが乗ってきました。帰省帰りで混雑し、親子は席がありません。前に座っていた老婦人が、「可愛いお顔をしたお嬢さんね、いくつになるの」そしたらその女の子は「ママ、いくつと言えばいい、家の時の歳、電車に乗った時の歳を言えばいい」と聞かれて、赤面をした母親と、知らん顔をしている父親。

わずかな乗車賃を惜しんで嘘を教え、無垢な魂に傷をつけてはいないでしょうか。

横に這っている親カニが、真っ直ぐ歩めと子ガニに言っても詮なこと。針が正しく進まねば、糸の曲がるのは当然の如く、親たる者、どんな貧苦の怒涛も、正直に強く生きていかねばならぬ。正直と正義が失われた現代だからこそ。可愛い子供のためにも。

釈 正輪 拜