ある日突然漂ってくるほのかな香り、あぁ、金木犀が咲いているな。秋晴れの青空が高く感じられる十月上旬、どこからともなく甘い香りに足を止めます。秋の深まりの初めを感じます。

金木犀はモクセイ科の常緑小香木で、日本では古くから庭木として植えらてきました。かなり遠くからでも香ってくるので、どこに咲いているかを探すのが楽しいですね。雨に打たれたり、花散らしの風が吹くと、オレンジ色の花がいっせいに落ちて、絨毯のように木の下に広がります。開花は二回あると聞きます。

もうすっかり秋も本番。朝夕冷え込むようになってきます。

合掌

栗や梨、イチジクに銀杏等、秋は多くの食材が旬を迎える季節です。旬といっても季節だけのことではなく、例えば、イチジクは採れたてが一番美味しいので、食卓にのせるのに急ぎます。雨に濡れても味がおちてしまいますから、天候にも気を遣って初めて、最高のものでもてなすことができます。

そんな心尽くしを「ごちそう」といいますが、これは経典にも見られる仏教の言葉なのです。漢字では「馳走(ちそう)」と書き、本来は馳け廻ることを意味する言葉です。先述のイチジクのように、食材を揃えるのに馳け廻ったり、種々の準備に奔走することから、料理で人をもてなす使われるようになり、更に転じて、料理そのものを指す言葉となったようです。

大変な思いをして食事を用意するのは、相手への感謝やおもいやりの心があればこそ。何とか喜んでもらいたい。是非、楽しんでほしいと、大切な人の喜ぶ顔を思い浮かべ、手間隙を惜しまず、おもてなしの心で尽くす。豪華でなくても、相手の幸せを一心に念ずる布施の精神が『ご馳走』なのでしょう。

料理は、食材も味付けも非常に大切ですが、それ以上に、相手の幸せを思う「利他」の心で、一段と美味しくなるのですね。

昨今多くの外国の方々が来日されている日本ですが、総理が推奨する日本の精神「おもてなしの心」は、われわれひとりひとりの心にあるのでしょうか。

母親の一周忌には、大好きだったイチジクを御供えしようと思います。

釈 正輪 拜