春ここに 生るる朝の 日をうけて
山河草木 みな光あり

佐々木信綱

立春の早朝、禅寺では、門に「立春大吉」と縦書きに書いた紙を貼ります。この文字は左右対称になるのでめでたく、一年間災難にあわないという厄除けの御呪いです。

季の和菓子に「葩餅(はなびらもち)」があります。白地にほんのりみえる紅が、新春の華やぎにふさわしく、白い求肥をまるく平らにのばして紅色の菱餅をのせ、とろりとした白味噌あんに、甘く煮た牛蒡をおき二つ折りにします。

宮中の正月行事「歯固め」でも用いられた菱葩に由来する由緒あるお菓子です。今では裏千家茶道の初釜に用いられ、その名が知られるようになりました。

合掌

「一番美味しい料理を食べたい」足利義満将軍は国中の料理人を召集しました。しかし食の贅を極めている将軍様は、どの料理も美味しいとは思えません。「下手な奴ばかりだ。もっと上手な料理人を探しだせ」側近の蜷川新右衛門親当が困惑していると、「私がこの世で一番美味しい料理を作って進ぜましょう」と、一休宗純禅師が申し出ました。

「世が満足する料理が作れるか」の問いに一休は、「おそれながら、それには私の言うことを守って頂かねばなりませぬ」「坊主如きに何ができるものか、守ってやるから作ってみよ」と、将軍様も意地になって承諾します。

それから三日間、一休はただじっと座禅を組んでいるだけでした。「いつになったら料理を作るのじゃ」「はい、そのうちに必ずお作りいたします」三日目にもなると、空腹でヘトヘトの義満に、粗末な根菜料理が運ばれました。「さぁお約束どおり、この世で一番美味しいご馳走が出来上がりました。十分にお召し上がりくださいませ」貪るようにそれをたいらげた義満は、「こんな美味しいものを食べたことがない」一休はこのように言いました。

「美味しい料理を作る秘訣は飢えにあり、空腹が一番のご馳走であります」この話しは架空の物語でありますが、私たちが美味しいと感ずるのは、飢えという苦しみの軽減されてゆく過程にあります。飢えの苦のないところに、美味しいという楽しみはあり得ません。

人生もまた同じです。苦しみから逃げ回って生きようとする者は、絶対に楽しみを味わうことができないのです。意気地なしや卑怯者と、真の幸福は無縁のものなのです。楽の元は苦でもあるからです。

釈 正輪 拜