新年から暖かな日和が続いていましたが、週末から雪や雨が降りました。昔から寒に入ってから九日目に雨が降ると「寒九の雨」といって、豊作の吉兆といわれてきました。もっとも厳しい冬の寒さの中にも、明るい兆しを昔の人は感じとってきたのでしょう。

明日十一日は「鏡開きの日」です。年神さまにお供えしたお下がりとして、堅くなった鏡餅を木槌や手で割って戴きます。餅を食べると力持ちになるとか、神人共食することで、神力の恩恵に与ろうと武家が好んだ風習ですが、もともとは平安時代の祝い事の一つでした。

「源氏物語(初音の巻)」には、「餅鏡(もちいかがみ)」や「歯固め」が描かれています。鏡餅の丸い形は「望月(満月)」に通じ、豊作の意味をもつともいわれたり、家庭円満の象徴ともいわれてきたようです。歯固めは、歯を丈夫にし、健康と長寿を願う風習でした。

合掌

鏡餅 わけても西の 遥かかな

飯田龍太

さて今年はどのような一年になるのでしょうか。世界的経済格差や、イデオロギーや宗教の違いによる紛争やテロが頻発しています。日本は戦後七十年以上の長きにわたり、幸いなことに一度も戦争をせずに済んでいます。しかし、一見平和に思える日本であっても、いつ有事に発展するかわからない火種が近隣国にあります。

戦争については昔から仏教の僧侶はあまり口を出していませんが、世界中の哲学者の多くは論じています。中でも十八世紀のヨーロッパを代表する、ドイツの哲学者イマヌエル・カントもその一人で、そのものずばりの『永遠平和のために』という本を書いています。カントの著書としては「純粋理性批判」「実践理性批判」「判断力批判」等、人間の理性の可能性を考え続けた人物です。

そのカントが七十一歳のときに書いたのが、理性を主体とした実践の世の中を考察した論説が、『永遠平和のために(一七九五年)』でした。この本は愛が地球を救うなどといった、ラブ&ピース的な内容ではありません。簡単に言えば、道徳的な考え方を重視し、道徳に厳密さ厳格さを要求した点です。カントの思想はやがて現在の「国際連合」創設に繋がっていくのですが、それは「国際的な連合」であって、国家間の上に更に全てを統合した、権力的統一政府を樹立するのではなく、其々の国や民族がそれまで使ってきた、歴史的言語や慣習や宗教などの価値観が維持される形で、平和の道を探るべきだと主張したのです。彼はそれを「平和連盟」だと提唱します。

そしてそれを実践するには、道徳と政治の一致が不可欠だというのです。カントのとらえる道徳とは、「無条件にしたがうべき命令を示した諸法則の総体である」と述べています。カントの哲学は、哲学の中でも最も難解だといわれていますが、それは彼の文章的表現方が難しいのであって、カントが重要視する「道徳」の意味が一つわかれば、全てがリング的に紐解けてくるのです。

カントの道徳は、今は無き日本人が大切にしてきた、日本国や日本人の根幹にある「道徳心」と同じだと思えて仕方がありません。

我が上なる星空と、我が内なる道徳法則、我はこの二つに畏敬の念を抱いてやまない

イマヌエル・カント墓碑銘

釈 正輪 拜