cs09_01_012014年の最初のカバーストーリーでは、日本のマーケティング界の一人者、慶應義塾大学名誉教授、日本マーケティング協会理事長を務める嶋口充輝氏の名著『ビューティフルカンパニー~市場発の経営戦略』のエッセンスを4回に分けて紹介したいと思います。第3回は、千客万来の仕組みづくりのコツ。

「商売の永続性を考えるのであれば、モノを売るよりまず、人をつくれ」とよくいわれる。この場合の人とは、顧客のことである。買い手との素晴らしい関係づくりこそが、ビジネスの原点なのだ。

 優良顧客は、粗利の8割近くをもたらせてくれるといわれるが、それだけではなく、そのお店の広告塔、あるいは伝道師となって新しいお客を連れてきてくれるはずだ。そこにある構図は、「客が客を呼ぶ」というものだ。

 もちろん、顧客との関係を強固なものにする方法は一つではない。簡単な道もなければ、王道と呼べる道もない。ただ、そのベースとなる姿勢が「信頼」であることは間違いない。優良顧客をまるで家族のように信頼するということが大事なのだ。

 信頼にはリスクが伴うものであるが、それでもなお、愚直なまでに信頼することが必要な時代なのである。

 たとえばディズニーランドでは、お客様が「お金を払ったのにチケットが足りなかった」と申告した場合、決してその申し出を疑わない。アメリカのパブリックスというスーパーでは、お客様が昨日買った食品がまずかったというと、即座に返金するという。そうした例は数多い。

 なぜそんなことができるのか。それは、こうした行為、信頼は投資だからだ。投資には確かにリスクが付きまとう。しかし、この投資は株式投資のようにハイリスク・ハイリターンではない。これは、あくまでも時間差を前提としたローリスク・ハイリターンの投資行為なのだ。だから、これをコストと考えた途端に、関係性の構築は終わってしまう。

 もちろん、ただ信頼していればそれでいいというわけではない。徹底的にコミュニケーションを図って、優良顧客のニーズを探り、掘り下げ、お店であればそのニーズに応えるような品揃え、店づくりを心掛ける。たとえば地域密着型のスーパーでは、優良顧客が欲しいといった商品は必ず仕入れるという方法で成功したところが少なくない。まさに購買代行業であるわけだ。

 さらに先がある。次にはそうした優良顧客と一緒になって店づくりや商品開発を行うというパートナーシップを構築することが重要だ。その顧客も、自分が店づくりに参加したお店、開発に参加した商品に対する愛着はひとしおだろう。そうした関係こそが、家族のような関係なのだ。

 売り手は買い手の立場に立って品揃えをし、あるいは商品を開発し、買い手は売り手の立場に立って新規の顧客を紹介する、という構図だ。

千客万来の仕組みづくりのコツは、顧客基点

 現在は仕組み革新の時代であると述べた。ここで必要とされる仕組みは、儲けるための仕組み、儲かるための仕組みではなく、千客万来のための仕組みだ。つまり、顧客を創造し、維持するための仕組みだ。

 これも店づくりで話すとわかりやすいと思うが、最初から利益を考えてしまい、儲けることを念頭に仕組みをつくろうとすると、どうしても効率化に走った仕組みをつくってしまいがちなのだ。どうなるかというと、顧客のニーズではなく、自分たちの商売の効率化を考える。そのために商品を絞り込み、手間のかかる接客を廃止するなどの仕組みを考えてしまう。限られた資金で店を開く以上、当然のことのように聞こえるかと思うが、その結果、魅力の乏しい店となってしまい、売上の源泉となる来店客自体が来ない店にしてしまったら意味がないだろう。

 それでは、千客万来の仕組みはつくれない。たとえ高度に効率的な仕組みができたとしても、お客が来ないことには商売にならない。千客万来の仕組みとは、その仕組み全体で顧客と向き合うようなビジネスモデルだ。商売の姿勢そのものを表すものであるべきなのだ。

 門前市をなして、初めて儲けることもできる。儲けは、賑わいに自ずとついてくるものだ。そのためには千客万来のお客様が必要なのだ。たくさんの顧客(千客)を創ったら、最低でも10回はリピートしてくれる(万来)顧客創造の仕組みが必要だ。

 商売には、昔から革新がつきものだ。不可能を可能にしたときに、課題を見つけてそれを解決したときに、商売は大きく伸びることができるからだ。

 もっとも、革新といっても、誰もが考えもつかなかったような大規模な企てというわけではない。意外と当たり前のことを粛々と行うところに革新は生まれるものだ。

 ただその当たり前を、業界の常識や自分たちの都合で決めるのではなく、顧客の立場に立って、顧客の目線で決めることが大切だ。業界の古い常識からすれば革新的なことを、見方を変えれば当たり前のことだということがわかるはずだ。

 顧客志向と顧客視点、あるいは顧客基点という言葉がある。より一般用語である顧客志向には、まだ供給側の論理を感じる。こちら側にいながら、対岸の顧客を集団としてとらえて、いかに相対するかを考えているニュアンスがあるからだ。自らの立ち位置を変えずに、いわば双眼鏡で顧客を観察している図が思い浮かぶ。

 顧客視点や顧客基点はこれとは全く違う。こちら側にいるのではなく、対岸に渡る。顧客の側に立って、顧客の視点でモノを見て、一緒に考える。顧客の目線で自分たちの商売、商品、店、ブランドを見直す。それが「顧客の靴を履く」ということだ。

 そうすることによって、今までとは全く違う景色が見えてくるはずだ。それができれば、ビューティフル・カンパニーの実現は近い。

ビューティフル・カンパニー』(嶋口充輝著)より