cs09_01_012014年の最初のカバーストーリーでは、日本のマーケティング界の一人者、慶應義塾大学名誉教授、日本マーケティング協会理事長を務める嶋口充輝氏の名著『ビューティフルカンパニー~市場発の経営戦略』のエッセンスを4回に分けて紹介したいと思います。第2回は、仕組み革新に必要なこととは何か。

 個別競争から、組織のコア・コンピタンス、あるいは組織能力をベースとした競争へと競争の形が変わってきている。

 個別競争とは、基本的に商品(単品ないしカテゴリー)の競争だ。これはわかりやすいために、対処もしやすい。品質が同じであれば、競合商品よりも売価を安くする、広告をたくさん打つ、チャネル対策を充実させるなど、それこそ4Pの個々の要素のそれぞれをコントロールしながら、競争優位に立つための努力をすればいい。そのために、ミドルマネジメントが汗を流してきたといえよう。

 ところが、そうした要素はすでに圧倒的な競争要因とはならなくなってしまったといえる。競合他社にすぐに戦略を模倣される、特許に守られているはずの新製品ですら、すぐに同等品が市場に出回ってしまう、究極の横並び主義が当たり前のものとなってしまっているからだ。そのために、面での競争はすぐに中和され、優位性は潰されてしまう。

 そこで重視されてきたのが、コア・コンピタンスや組織能力をベースとした競争だ。そうしたものは、目に見えないものであるために、組織文化やDNAなどという言い方をされることもある。呼び方は何でもいいのだが、問題なのは、他人に見えないために模倣されにくいだけでなく、自分たちにも見えないということだ。自分たちにも、その本質がよくわからない。「自分たちの強みの源泉がわからない」という言い方もできる。

 それは探してみてもよくわからない。そこで出てきたのが、ビジネスモデル論だった。個別要素の競争ではなく、全体としてのビジネスモデルによる競争である。私は、このビジネスモデルという言い方にどうしても無機質性を感じてしまう。そこで、このビジネスモデルという呼び名を、人間味を加味した「仕組み」と呼ぶことにした。堅い戦略ではなく、柔らかい戦略性を重視するのと同じだ。計算されつくした冷たいシステムではなく、人間性を大事にする曖昧さも時に重要だと考えている。

 この「仕組み」のベースとなるのが、前回述べた「アンビション」だ。

 よく観察すれば、新しく成長してきた企業は、すべからく仕組みのユニーク性をベースに顧客価値をしっかりと提供することで、優位性を発揮してきたのだということがわかる。

 そこで、ユニークな仕組みを作り上げるための「仕組み革新」が必要になるが、ここではそのために忘れてはいけないポイントについて説明しよう。

 第一に重要なのが、“事業の革新的な定義”だ。

 たとえば、青梅慶友病院(東京都青梅市)という老人専門病院がある。同病院は、医療機関としては異例ともいえる革新的な改革を行って高い業績を上げている病院だ。

 その改革の出発点は、「病院はサービス業である」という定義であった。医療機関は確かに非営利法人だが、買い手発・買い手着の発想で顧客満足を追求し、その結果、企業(法人)を安定的に維持・成長させて、適正な利潤を受けるというのが事業の原則である。そのことを前提として、医療行為も顧客に対するサービスであり、ホテルなどと同じく病院もサービスビジネスの一翼を担う業態であるという画期的な定義を彼らは行った。

 現代では、どの病院のサービスを選ぶかは患者の側に選択権があるのだから、昔のような「施し」的な発想で独りよがりの経営をすることは病院であっても難しい。病院であっても顧客価値を重視し、患者にとって価値のあるサービスを提供し、その見返りとして対価を得る。そういう概念を前提とした経営を行い始めたのだ。

「事業がユニークに満たすニーズ」こそが現代のコンセプト

 次に、仕組みの中核には、“明確な事業コンセプト”がなければいけない。これは当然、「革新的な定義」と密接に関連するが、「事業がユニークに満たすニーズ」を意味する。ここでユニークの意味は、差別化された独自性である。

 ビジネスにおいてコンセプトとは、すべからくニーズを指す。たとえば化粧品のコンセプトは化粧品が満たすニーズであるから、一義的には「美しくする」ことであり、「粗を隠す」こととなる。それをどれだけユニークに達成するかが問われるわけだ。これが薬であれば「(ある特定の)病からの回復」であったり、「健康の維持」であったりする。

 コンセプトが明確化されたら、そのコンセプトに従って、経営資源を統合(インテグレート)する。整合性に気をつけながら最適化を図る必要がある。

 そして“千客万来の仕組み”を創る。

 ビジネスモデル、あるいは仕組みとは、顧客を創造するためのモデルであり、仕組みでなければいけない。顧客の創造こそが、事業の唯一の目的だからだ。

 儲ける仕組みを創ろうとすれば、少なくとも長期的に見て、その仕組みは失敗する可能性が高い。あくまでも、千客万来の仕組みを創らなければいけない。そのベースとなるのは顧客満足に他ならない。その上で、顧客とどのようにリレーションを持つのかが問われる。

 このように、事業の革新的な定義をする。製品価値ではなく、顧客価値に基づく定義だ。そして、その定義に基づいた仕組みを創る。顧客を創造して、維持することのできる仕組みだ。そのためには、その中核にコンセプトが必要になる。このコンセプトとは「事業がユニークに満たすニーズ」でなければいけない。そのコンセプトに従って、首尾一貫した仕組みを創り上げ、各経営資源をうまくあてはめていく。集中と選択だ。そこで、足りないものがあれば、提携なども含めてその手当を検討する。

 最後に、その仕組みからしっかりと利益に落とし込める「ミソ」を考え埋め込んでおく。そうやって、入口に顧客がいて、出口に利益がある仕組みを構築する。

 こうした仕組みで競争するという考え方は、何も目新しいものではない。しかしながら、多くの場合、目先の競争に終始してしまう。だから、どうしても個別要素での競争になる。高度経済成長期などであれば、それでもいいのだろうが、成熟市場を多数抱える現代のビジネス環境では、それでは安定的に自社の成長を維持することは困難だろう。

 仕組み全体で顧客と向き合うことが必要なのだ。

 マーケティングの役割は、何らかの社会的に有用な革新的な価値物やアイデアを、ユーザーが受け入れやすいトータルな仕組みに仕立て上げて、長期的に社会全体の福利や利便を高めていくことにあるともいえる。そのため、マーケティングはその誕生以来、主体が精神やサービスあるいは事業全体かにかかわらず、常に革新的な市場受容の仕組みづくりに腐心してきた。その仕組みの中核をなしているのが、常に市場ニーズへの適応とライバル優位を反映する事業コンセプトであったわけだ。

ビューティフル・カンパニー』(嶋口充輝著)より